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いわて銀河チャレンジ100km報告(下) [ウルトラマラソン]

 (上)(中)(下)の3部構成で最終回です。

まだ読んでない方は(上)から読んで下さいね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
(中)からの続きです


 

関門ギリギリの集団は、いつしか10人を超えていた。
いや、女性も2人加わっている。
一番若い女性は、それほどフルの経験もないという。

 「いしのまき復興マラソン」参加の男性が歩き始めた。
「(86kmの関門は)もうすぐですよ」励ましたつもりだ。
彼はうなずき、一瞬笑みを浮かべたが、走ろうとはしなかった。

一人、また一人落ちて行く。
まるでサバイバルレースだ。

前から落ちてきて、ふんばって「仲間」に加わるランナーもいる。

フルと違って必ず立ち寄るエイドで過ごす時間により、
「仲間」の
人数や顔ぶれは変わる。
それでも、またギリギリ同士は一緒になる。
この仲間に付いていけないということは、
つまりリタイアを意味するのだ。
2015-06-16 21.18.08.jpg
 日が傾き、オレンジ色に山が染まりつつあった。

「厳しいのは86kmです」もう大丈夫。
ミニスカートの男性が言った。
「もう関門はないんですか?」
90.5kmにあります。でも、もうそんなききつくはないです。40分ありますから」
なるほど。たったの4kmに40分だったら、
1kmあたり10分で済む。

暑さのせいもあるだろう。アップダウンの連続と厳しい関門。
私たちの後ろのランナーは、ほとんど関門から先には進めないはずだ。

最後尾の私たちの中には、サブ3、サブ3・5の経験者が数人いた。
「フルと、ウルトラは違うんですよね」実力派ランナーたちはうなずき合っている。
サブ4を達成したことで、自信を持った自分の勘違いを知る。
しかし、ここで自信を失ってもいけない。
走るのだ。
歩いても、どうせ足は痛いのだ。
走ると、もっと痛いけど。


最終関門の90.5kmまでたったの4km。40分もある。
キロ10分で走れば間に合う。
しかし、その
4kmがくせ者で、ほとんどが上りだった。
また歩いてしまった。
40分もあるのだから、少しくらいはいいだろう。
ギリギリの男たちも歩き始めた。
でも、何人かは痛そうに、歯をくいしばって走る。
ほとんど歩くのと同じスピードで。

kitakami1.jpg
分ほどあった「貯金」は、こうして浪費されていく。
 上りが終わって国道らしい大きな通りに出た。
自然の中から、人の暮らしの中に戻ってきたような気がする。
すぐに関門とエイドがあった。

あと9.5km
時間は80分もある。
キロ8分ペースなら完走だ。
ちょっと自信が出てきた。

最終関門を兼ねた90.5kmのエイドにはコーラがあった。
「夢に見たコーラだ!」甘さと炭酸が心地よかった。
アクエリアスにはもう、飽き飽きしていた。
「これ、私たちが作ったゆべし。ポケットに入れてって」とエイドのおばちゃん。
「手作りのゆべしなんて初めて。ありがとう」
ウエストバックにしまい、走り始める。

 よし、足は動く。
キロ7分45秒ペースで走れる。
これなら
完走は間違いない。
ただ、GPSの誤差などもあるし、ぎりぎりは怖い。
分は余裕が欲しい。
もう少し急ごうか。
 
「あと何キロですか?」
男性を追い越そうとしたとき、その
男性が沿道の係員聞いた。
係員は指を4本立てて「4キロ」と言った。
「ありがとう」彼はお礼を言った。
そんなはずはない。
私は
GPSを思わず確認して言った。
「違う、私のGPSだとまだ6キロ近くはありますよ!」男性に告げる。
キロの違いは、今の私たちにはあまりに大きい。
分ペースでも2キロで14分。
もし、
そのつもりで歩いてしまったら、取り返しはつかない。

 しばらく走ると「ゴールまで5km」と標識が見えた。
先ほどの男性が、並走してきた。
お礼を言いたいのかと思って、私は黙っていた。
しかし、彼は黙っている。
私から口を開いた。
「もう、(ゴールまで)行けるでしょうね」。
「あぶないところでした」。
 しばらく、お互いのことを話した。
彼は3度目の「銀河チャレンジ」。
最初はリタイヤ。去年は完走。13時間53分だった。
「今年も同じタイムになりそうです」。
フルマラソンではサブ3.5という。
kitakami2.jpg
 日中、さんざん私たちを照りつけた太陽は赤みを増して、
田植えを終えたばかりの田んぼ
に反射している。
スマホのシャッターを押しながら、
「スタートした直後もこんな写真を撮ったな」と思った。

そうだった。
夜明け前から走り始め、朝焼けを見た。
日中は暑さに苦しめられた。
そして夕焼けに変わった今になっても、
なお、走り続けているのだ。
13時間を越えた。

 あと3km。
また上り坂がある。でも、25分もあるから、歩かなければ大丈夫だ。

「さあ、元気を出しましょう」とミニスカートの男性が言う。
応じるように「元気が出たぞ」と大声で言い、
しばらく並走してみたが、結局ついていけなかった。

 あと1km。12分ある。
もう大丈夫。
ゴールは間違いない。
いよいよ完走を確信した。

ゴール付近のざわめきが、かすかに聞こえてきた。

いよいよだ。

気が付けば、私は一人だった。
前のランナーも、後ろのランナーとも、50m以上は離れている。
 走るほど、音がどんどん大きくなる。
人のにぎわい。歓声。音楽。 

野球場らしいグランドに沿って、右にまがった。
白いテープがピンと張られていた。

あと30m。
今、このまっすぐなコースを走っているのは、私一人。

あのゴールテープは、私が切るためにある。

20m。

前へ進む。

歓声がいっそう大きくなった。
私に向けられている声援だ。

10m。
何も考えない。
ただ、白いゴールテープをめがけて。

5m。

その瞬間、歓声に包まれていた。



 (おしまい)

2015-06-16 21.19.06.jpg 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
エピローグ

ゴール後、一緒に走った仲間たちと、
お互いのゴールを喜んだ。
「僕も完走しましたよ」
後ろから声がした。
振り返ると「石巻です」と言った彼だった。

ずいぶん前に落ちたので、完走は無理かと思っていた。
よく粘ってくれた。
ここで会えて良かった。
またどこかのレースで会おう。きっと。

私にウルトラの走り方を教えてくれたMコーチも、
ゴール直後に笑顔で迎えてくれた。
もちろん、無事完走。
彼がいなかったら、私の完走はなかった。
50kmの部に挑戦した奥様も無事完走したとか。
ご夫婦で完走すれば、喜びも倍増だろう。

ウルトラを走る。
そのさなかには、2度と走るまいと思っていた。
こんな辛いレースなんて、もう2度とは。

でも、今は・・・・・・・

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

数多くのアドバイスをくださったKANPEIコーチ、
そして、走る喜びを与えてくれたW隊長、
いつも一緒に走ってくれた大勢の仲間たちに、

心からお礼を申し上げます。


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コメント 7

w

走る仲間が出来たり、自信を失いかけたり・・・
読むだけでも出たい!出たくない!を繰り返し本当にウルトラですね。

完走した後の今の思いも語ってもらえると嬉しいです。


by w (2015-06-19 00:48) 

reikoneesan

完走、おめでとうございます! お疲れ様でした。
読んでいると涙が出ました。
100Kという途方もない距離のすごさを感じました。
疲労、脚の痛み、折れそうになる自分自身と戦ってようやく
たどり着くゴール!
ほかのランナーと励まし合い、でも最後はやっぱり自分で乗り越えるしかなくて。何かに挑み一生懸命頑張って乗り越えるのって
すごいことですね。
ホントwell done! Bravo!!
by reikoneesan (2015-06-19 06:34) 

KANPEI

感動です!!

フルでも毎度毎度の大会でヘロヘロになっていますが、100kmマラソンはフルなんか楽勝と思えるぐらいとてつもなく厳しいことが良く分かりました。

サブ3ランナーでもリタイアしているとは、、、。

このブログを読んでいると、
練習嫌いの僕でも自分に向かって「お前も走らんかい!」と触発され、更にはW隊長のように「ウルトラに出てみようか?!」と云う気にさえなって来ました。

イヤー、ホンマに素晴らしい!
かっこいい!!

PS
 こうなると、いや既に、サブタイトルの「遠く遥かなり、サブ4への道」は
 看板の架け替えが必要かと思います。



by KANPEI (2015-06-19 09:18) 

49歳初挑戦男

こんにちわ。

身体のダメージはどうだったのでしょうか?
足は?内臓は?
大丈夫ですか?
ブログを通じて知り合わせてもらいたくさんのアドレスや教えを頂きましたがまさかここまでの感動と勇気をいただけるとは思いませんでした。

苦しみや痛みに耐えながら乗り越えた時の達成感は想像つかない喜びだと思います。

それにしても カッコイイ です。
さすが 男前 です。

感動をありがとうございました。感謝



by 49歳初挑戦男 (2015-06-19 13:10) 

Jack

旅行の途中で、返信が遅くなりました。
お誉めのメッセージありがとうございます。
でも、フルマラソンを走った方なら、
誰でも完走出来ると思います。
今回、私が一番感激したのは、誰ともなく、
最後尾のランナー同士の励まし合いです。
またウルトラに出るなら、最後尾がいいとさえ思いました。

隊長、百聞は一見にしかず。来年いかがですか?

KANPEIコーチ、サブタイトルは考えます。
でも、まだ胸を張ってサブ4と言えない気がして。

Reikoneesan、私が思いますに、reikoneesanはウルトラ向きのような。
ぜひ、感動を味わってください。

49歳初挑戦男さん
やれば、出来る。
そんな気持ちになりました。
仮に失敗しても、次の目標にすればいいですよね。
マラソンの楽しさを、より味わえましたよ。
by Jack (2015-06-19 22:48) 

駆け出しイントラM

ここではお初です。

当日はスタート直前とゴール直後しか時間を共有できませんでしたが、
素晴らしい参戦記を読んで思わず書き込みに来てしまいました。

ウルトラはフルまでと違って独特な雰囲気があり、
周りにいるランナーは競争相手ではなく戦友なんですよね。
この感覚を味わってからはやめられなくなってしまいました。
私は来年も「物好きなことをやっているな~」とぼやきつつも
またあのコースを走っていると思います。
機会が合えばまた行きましょう。
by 駆け出しイントラM (2015-06-20 14:50) 

Jack

イントラMさん、
ようこそ。
そしてありがとうございました。
完走は「キロ7分以下のペース」という教えを、
守ったおかげだと思っています。
「競争相手ではなく戦友」とも聞いていましたが、
経験するまではピンと来ませんでした。
80kmすぎの後半、
その戦友たちのおかげで、
苦しさよりも、楽しさが上回りました。
私も来年、あのコースを走っている気がします。
もう一度、あの喜びを味わいたいです。
by Jack (2015-06-21 08:43) 

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